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クスノキの害虫防除の意外な方法

「植物は動くことができなくて、その場で耐え忍んで生きる…」そんなイメージを持つ人が多いかもしれません。しかし、植物は、自身の利益のために動物たちを利用する狡猾的な一面ももっています。今回はそんな現象を、クスノキを例にご紹介しましょう。

クスノキの葉には3本の太い葉脈があり、分岐する部分に直径2mmほどの小さなコブ(白色矢印)が2つあります。このコブはもともとクスノキがダニの居住部屋として用意した「ダニ室」と呼ばれる器官で、コブの中には「フシダニ」というダニの仲間が棲んでいます。

意外なことに、ダニ室に棲むフシダニの一種は植食性で、クスノキにとっても有害です。なぜクスノキは、自身に害のあるフシダニの居住地を用意しているのでしょうか?この疑問を調査した研究は、クスノキが下記3種のダニを巧みにコントロールしていることを明らかにしました。

フシダニ①:ダニ室の中やその周辺で活動するダニ。植食性ではあるものの、クスノキへほとんどダメージを与えません。クスノキにとって、居てもさほど困らない存在です。
フシダニ②:ダニ室の外で生活するダニ。増殖する際に「ゴール」と呼ばれる家を作ります。ゴールを作られた葉は大きなダメージを受けます。クスノキにとって、天敵です。

肉食性ダニ:体が大きく、ダニ室の中へは入れません。葉の上でダニ室から出たフシダニ①や、フシダニ②を襲って食べます。クスノキにとって、頼れる警備隊です。

クスノキはダニ室の中でフシダニ①を半ば飼育し、肉食性ダニを誘引し、常駐してもらうことで、フシダニ②から身を守っていたのでした。

7月24日に開催した催しでは、自然観察園でクスノキの葉を採集し、デジタルスコープでダニ室の中を観察しました。

ダニ室の断面の様子をビッグパットに映してみると、中で半透明のフシダニの一種が蠢いていました。

クスノキは公園や街路樹などに植えられています。そんな身近な樹木の1枚の葉の上で、小説や映画のようなドラマティックなストーリーが展開されているのです。

より詳細な情報を科学館noteで公開しています。興味のある方は是非ご覧ください。
葉の裏で裏取引 ~クスノキの害虫を防除する意外な方法~(note)

イベント名:105歩で生き物観察【クスノキのダニ編】
開催日:2022年7月24日(日)
イベント担当者:小粥隆弘(生き物博士)
参考資料
「クスノキとそのダニ室内外で観察されるダニ類の相互作用に関する研究」笠井敦 (2006).
「葉上の小器官『ダニ室』」西田佐知子 (2004).