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キリギリスとバッタの違いは「触角の長さ」と「耳の位置」

科学館で「身近な昆虫採集体験」を開催しました。
子供たちに虫取り網、虫かごを貸し出して、自然観察園やサイエンスパークで自由に昆虫を採集し、採集した昆虫は館内サイエンスライブラリーの図鑑で種を調べます。

採集した昆虫のうち、バッタ・キリギリスの仲間に限定するとクビキリギス、ホシササキリ、ショウリョウバッタ、オンブバッタ、ショウリョウバッタモドキの計5種が獲られました。

科学館の敷地内で捕まえたバッタ・キリギリスの仲間5種

参加者の皆さんは、これら5種の種同定にかなり手こずっていた様子。体色が緑色や茶色などに偏り、どの個体も同じ種に見えてしまうようです。

同定の第一歩は、「キリギリスの仲間(以下、キリギリス)」と「バッタの仲間(以下、バッタ)」に分けることです。キリギリスとバッタを簡単に見分ける一番のポイントは「触角の長さ」。触角が体長よりも長ければキリギリス、短ければバッタです。

触角>体長:キリギリスの仲間  触角<体長:バッタの仲間

獲られた昆虫の触角の長さに着目してみると、
キリギリス:クビキリギス、ホシササキリ
バッタ:ショウリョウバッタ、オンブバッタ、ショウリョウバッタモドキ
に分けることができました。

キリギリスは夜行性、バッタは昼行性の傾向があり、私たちが暗闇で手を伸ばして物にぶつからないよう歩くように、キリギリスは暗闇での生活に適応して触角が長くなったのかもしれません。

さらに体の構造を観察すると、触角の長さの他にも両亜目の面白い相違点が見つかります。それは「耳(聴覚器官)」の位置。キリギリスは前脚の脛節に、バッタは胸部にあります。

昆虫の耳は、鳴き声を使った個体間のコミュニケーションのために用いたり、外敵の存在を感知するために用いたりと、その機能は分類群によって様々です。キリギリスはバッタよりも、鳴き声を使った個体間のコミュニケーションを盛んに行う傾向があります。そのため、耳の位置は交尾相手が発する音源を特定するために有利な場所にあると考えられます。

他の昆虫の耳が頭部、胸部、腹部など体幹にある一方で、キリギリスは前脚の端に存在します。前脚を広げることで、左右の耳の位置をできるだけ離し、左右の音が到達するまでのタイムラグを生み出すことに繋がっていると考えられます。私たちヒトの左右で耳の位置が離れているのもキリギリスと同じ理由で、左右でのタイムラグによって音源を特定することができます。

耳の位置のもう1つの理由は…このブログも少し長くなりましたので、リンク先で公開しているnote記事をご覧ください。
あなたの「耳」はどこにある? コオロギ・バッタの耳の話

私たちの身近には、様々な種類の昆虫たちが生息しています。じっくり観察すると興味深い生態や進化が垣間見られて、昆虫たちの新たな側面を発見できるかもしれません。

イベント名:「身近な昆虫採集体験」
開催日::2021年7月24日(土), 7月25日(日), 10月16日(土), 10月17日(日)
イベント担当者:小粥隆弘(生き物博士)
参考資料
西野浩史. 昆虫の聴覚器官 ―その進化―. 比較生理生化学 23, 26–37 (2006).
Song, H. et al. Phylogenomic analysis sheds light on the evolutionary pathways towards acoustic communication in Orthoptera. Nat. Commun. 2020 111 11, 1–16 (2020).