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夏の企画展「身近で気になる昆虫展」

2021年7月20日(火)~8月31日(火)に夏の企画展「身近で気になる昆虫展」を開催しました。

アパートの廊下や、通勤・通学路のブロック塀などにいる昆虫を見つけて「この虫の名前はなんだろう?」と思ったことはありませんか?
こんな色の昆虫がいたんだなぁ。
何て名前なのかな?
図鑑で調べるほどではないけれど、ちょっと気になるなぁ。

そんな「身近で気になる」昆虫たちを主人公に、標本やスタッフ手作りの展示物をじっくりと観察・体験しながら、昆虫の色形、生態、進化の面白さを体感する企画展でした。

まずは企画展の中核である「身近で気になる昆虫ランキング BEST50」をご紹介します。
このランキングは科学館の生き物博士が個人的に運用しているTwitter アカウントの情報をもとに作成しました。「名前を知ると興味・愛着が生まれるかも?」をモットーに、「この虫なんだろう?」というような写真付きのツイートなどを拾い上げ、回答しています。

これまで、昆虫に関する質問に約2万件お答えし、そのデータをもとに、回答が多かった上位50 種をまとめました。
さて、皆さんがこれまでに出会い、気になっていた昆虫はいるでしょうか?

身近で気になる昆虫ランキング50

本企画展の特長は、入口で1人1本虫メガネが配られる点です。スタッフおすすめの観察ポイントとともに展示されている「身近で気になる昆虫50種」の標本を、虫メガネを使って細部までじっくりと観察しました。

会場では身近な昆虫たちの色形、生態、進化をテーマにした計22の題目を、スタッフ手作りの展示物とともに紹介しました。
ここでは22の題目の中から、昆虫の翅の進化についての話をご紹介します。

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どんどん便利な形に!翅の話

昆虫は約4 億年前に翅を獲得しました。飛ぶことができる昆虫たちの中で、現在も生き残っている最も原始的なグループは、カゲロウやトンボの仲間です。

彼らは翅をもつものの、翅を上下に開閉することしかできません。とまっているときは4 枚ある翅を閉じたとしても、垂直に立てるだけで、翅2 枚分の空間を保ち続けなければなりません。

翅を閉じた状態のカゲロウの仲間

その後登場した昆虫たちは、翅の上下運動だけでなく、折り畳むことができるようになりました。下の写真はシロスジカミキリの模型です。下翅(白色の翅)の部分を動かしてみると、大きな翅がとてもコンパクトに折り畳まれて収納されていることが分かります。

この「翅の折り畳み」も昆虫界では翅の獲得に匹敵するほどの画期的な進化でした。薄くてもろい翅を小さく収納することで、小さな隙間や水中、土の中でも生活できるようになりました。生息環境の選択肢が増えたことは、昆虫の種の多様化を促しました。

また、昆虫たちの翅の構造は、人間社会の科学技術に活かされると期待されています。例えば、腹部の先にハサミをもつハサミムシの仲間は、腹部の可動域を広げてハサミを自由自在に扱うために翅を収納するスペースを極端に小さくしました(下の写真参照)。この収納方法は工学的にも優れたもので、傘や扇子、人工衛星の太陽電池パネルの設計などに役立てられると注目されています。

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昆虫の翅の進化の話、いかがでしたでしょうか?
身近な昆虫からでも、色形、生態、進化など昆虫学の中核的なテーマを学ぶことができます。残りの21の題目も科学館公式note上で内容を公開しておりますので、文末のリンクからご参照ください。

会期中にはたくさんの昆虫好きな子供たちが来館してくれました。
反対に「昆虫が嫌い」という方もいらっしゃいました。

実際に近年、都市化が進む先進国で昆虫嫌いの方は増えています。
一方で昆虫たちは、私たち人間社会に大きな恩恵をもたらしています。

ハサミムシの翅の開閉は宇宙工学へ大きなヒントを与え、タマムシの構造色は日用品のデザインに活かされています。チョウの仲間やハチの仲間は、花から花へ花粉を運んで農産物全体の作物種約75%、収量約35%を受粉させる作業を担い、クサカゲロウは害虫のアブラムシをせっせと駆除してくれます。

企画展で登場した昆虫たちだけでも、私たち人間へとても大きな恵みをもたらしてくれています。地球上には、未知もしくは研究がされていない昆虫たちがたくさんいます。それらは、私たちの生活を豊かにしてくれる可能性をもつ財産と言えるでしょう。

このまま昆虫嫌いの人が増えてしまったとしたら、昆虫の研究や、昆虫を含む自然環境への保全が行われなくなり、私たち人間の潜在的な財産が無くなってしまうかもしれません。

昨年発表されて話題となったある研究論文では、「なぜ昆虫嫌いな人が増えているのか?どうすれば減らせるのか?」を心理学的なアプローチで解明するために、日本人1万3千人を対象にアンケートを実施しました。

その結果、次のようなことが分かりました。

・野外よりも屋内で出会う昆虫に嫌悪感を抱く
・子供の頃に自然の多い場所で育つと昆虫の同定能力が増す
・昆虫の同定能力が高いと、ゴキブリは嫌い、他の昆虫は嫌いじゃないなど、昆虫の嫌悪感にメリハリが付く

これらの結果は、そもそも都市部では昆虫と出会う頻度が減り、「目の前の昆虫が何者か分からない」「分からないものは怖い」という心理が働いていることが原因と考えられます。

そんな方は、是非「身近で気になる昆虫ランキング」で種名を調べて、名を知らぬ昆虫たちを「見ず知らずの隣人」から「見知ったご近所さん」に変えていってみてください。

本企画展をきっかけに、昆虫を嫌いじゃない方が昆虫に興味・関心をもち、昆虫嫌いの方が昆虫の嫌悪感にメリハリをつけてくれたら嬉しいです。

※「身近で気になる昆虫展」の詳細は、下記URLの科学館noteよりお読みいただけます
前編(身近で気になる昆虫ランキング Best 50)
後編(昆虫たちの驚くべき色形・生態・進化)

イベント名:夏の企画展「身近で気になる昆虫展」
開催日:2021年7月20日(火)~8月31日(火)
イベント担当者:小粥隆弘(生き物博士)
参考資料
『蟲愛づる人の蟲がたり』 (筑波大学出版会, 2019)
Kamata, K. Biotemplating Process for Electromagnetic Materials. Ind. Biomimetics 155–174 (2019) doi:10.1201/9780429058837-8.
Saito, K., Tachi, T., Fujikawa, T., Niiyama, R. & Kawahara, Y. Deployable Structures Inspired by InsectWing Folding. in Origami 7: Proceedings from the seventh meeting of Origami, Science, Mathematics and Education vol. 3 747–762 (2018).
Saito, K. et al. Earwig fan designing: Biomimetic and evolutionary biology applications. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 117, 17622–17626 (2020).