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錬金術師が作っていたもの

皆さんは「錬金術」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
今も昔も、金(きん)はとても貴重で価値のあるものです。富の象徴であった金は、その美しさと希少価値の高さから、世界中の人々を魅了してきました。錬金術は、その貴重な金をつくってしまおうと試みた技術のことです。
錬金術の歴史は古く、紀元前1世紀頃まで遡り、古代ギリシアや古代エジプトが発祥と言われています。当時は、安い鉛などの金属に鉱物を混ぜ、熱や化学薬品を加えて金に変えるという手法が用いられていました。錬金術に用いられた鉱物は“賢者の石”と言われ、たいへん貴重なものだったようです。

ピーテル・ブリューゲル作『錬金術師』16世紀の錬金術師の実験室

ここまで読んで「あれ?」と思った方がいらっしゃるかもしれません。この時、錬金術師がつくっていたものは、果たして本物の金だったのか。残念ながら、本物ではありませんでした。金属や鉱物を混ぜてつくっていたものは、表面は金に似た、黄金色の別の物質だったのです。でも当時は、それを誰もが本物の金と信じていたのですね。

では、錬金術師は何をつくっていたのでしょうか。実は、錬金術というのは「合金」という新しい物質を作り出す手法なのです。合金は、2種類以上の金属を溶かし合わせてつくられた物質のことで、ステンレス、白銅、青銅、赤銅、黄銅などがあります。合金は、さびにくく丈夫であることから、私たちの暮らしのいたるところで使用されています。中でも、5円玉や、壁にかけるフック、トランペットなど金色をした金属は真鍮(黄銅)と呼ばれ、銅と亜鉛が融合したものです。かつて錬金術師が競い合ってつくっていたのは、真鍮だったのかもしれません。

  • 蛇口(ステンレス)
  • 100円硬貨(白銅)
  • フック(黄銅)

浜松科学館では、この錬金術師のわざを使ったイベントを開催しました。まずは、銅板に亜鉛と水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱します。すると、きれいな銀色に変化します。これは銅の表面に亜鉛が付いたもので、「めっき」と呼ばれています。これを火であぶると、表面の亜鉛と銅が溶け合って、合金つまり金色に輝く真鍮の完成です。

参加された皆さんも、わくわくしながら銅が金色へと変化する実験を楽しんでくださいました。本物の金ではありませんでしたが、本物の真鍮づくり、いかがでしたでしょうか。実験としても、とても面白いので、また企画したいと思っています。

イベント名:金・銀・銅のメダルをつくろう
開催日:2021年8月1日(日)
イベント担当者:上野元嗣(うえちゃん)
参考文献等:『世界史は化学でできている』左巻健男著