皆さん、こんにちは。
浜松科学館の生き物博士、小粥です。
3月27, 28日に「トークオブワンダー:映画「かぐや姫の物語」に登場するのは何ザクラ?」を開催しました。
去年から今年にかけて、自宅で映画を観る機会が増えた方もいらっしゃると思います。
映画を観ていて、見覚えのある場所や物を発見して興奮することはありませんか?
通っていた学校、行ったことがある観光地、道路、飲食店、etc.・・・。
生き物好きな筆者としては、動植物が登場すると興奮します!
その生き物の生息環境や生活史から舞台設定が推測されると作品への想い入れが強まって、より深い感動が得られることがあります。
たくさんの動植物が登場する映画と言えば、スタジオジブリの作品が有名です。
今回のトークオブワンダーでは「かぐや姫の物語」に登場する動植物を観察しながら、生き物の生態や人間との関りについてお話ししました。
その一部をご紹介します。
まずはこちらのシーン。
かぐや姫たちは車に揺られながら花見へ出かけます。
黄色のアブラナの奥で、ピンク色のゲンゲ(レンゲ)の花が咲いています。
ゲンゲの根には窒素固定菌が棲んでいて、菌には空気中の窒素を取り込む性質があります。
窒素は農家さんにとって貴重な肥料。
静止画のゲンゲ畑も、農産物の収穫量を増やすために栽培されているものと推察されます。
現代ではゲンゲの代わりに化学肥料が使われるようになり、ゲンゲ畑も見られなくなりつつあります。
より便利で効率的になった反面、美しいゲンゲ畑が見られなくなるのは少し寂しい気がしますね。
当日はゲンゲの仲間のシロツメクサ(三つ葉のクローバー)の根を見てもらいました。
根には少しピンク色がかった粒々(根粒菌)があるのが分かりました。
次はこの作品のハイライトとも言えるシーン。
かぐや姫が丘の上の大きな桜の木の下で舞う場面です。
よく観ると、ピンク色の花に混ざって、赤色の点々が描かれています。
別のシーンでは…
赤色の点は、どうやら葉のようです。
サクラは「花が散ってから葉が出る」というイメージがある方には、少し不自然に感じるかもしれません。
私たちが日頃から慣れ親しんでいるサクラは、ソメイヨシノという品種です。
ソメイヨシノは、自生種のエドヒガンとオオシマザクラを掛け合わせてつくられた品種です。
花が散った後に展葉するのは、エドヒガンの性質を受け継いでいるからです。
江戸時代後期に誕生した比較的新しい園芸品種ですので、平安時代以前の竹取物語の世界には存在しないのです。
それでは、このサクラは何という種(品種)なのでしょうか?
日本に自生するサクラには、ミヤマザクラ、チョウジザクラ、ヤマザクラ、オオシマザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、カスミザクラ、エドヒガン、オオヤマザクラ、カンヒガンザクラ、そして2018年に新種記載されたクマノザクラの計11種があります。
このうち、3つの条件
①本州に広く分布
②花弁がピンク色
③花と同時に赤褐色の葉が展開する
を充たすのは「ヤマザクラ」です。
ヤマザクラは、江戸時代以前に主流のサクラとして親しまれていました。
時代劇などでも、よく作りこまれた作品では、サクラはソメイヨシノではなくヤマザクラが用いられています。
かぐや姫の物語に登場する動植物は物語の中だけで生きているわけではありません。
今回ご紹介できなかった、ハハコグサやツユクサなど、私たちの身近でも観察できるものばかりです。
作品からリアルへ、リアルから作品へ、知識や経験が行き来すると一度見た映画や日常生活がさらに奥深く、面白く、楽しくなります。
皆さんも登場する自然環境に注目しながら、映画鑑賞を楽しんでみてください (^^♪
追記ですが、かぐや姫の物語のより詳細な観察、考察を浜松科学館公式noteで行っています。興味のある方は是非ご覧ください。