何の変哲もない風景ですが、縁石の白色矢印の部分がオレンジ色に変色しているのが分かります。これはコウロコダイダイゴケという地衣類(ちいるい)の一種。ルーペで拡大すると右下のように”どら焼き”のような子器と呼ばれる生殖器官がかわいらしく並んでいるのを見ることができます。
地衣類という言葉は、あまり聞いたことがないかもしれません。地衣類は生物学的には、「菌類」に属します。
菌類はキノコ、カビ、酵母などから構成されています。これらはそれぞれ食材、衛生、発酵食品などで私たちの生活と深くかかわっていますので、ご存知の方も多いと思います。一方の地衣類は、菌類の中で「藻類(そうるい)」と共生するグループを指します。藻類とは、細胞内に葉緑体をもち光合成で栄養を作る生き物です。
地衣類の断面を見てみると、緑藻類やシアノバクテリアなど小さな藻類が組み込まれています。地衣類は、藻類が光合成で生産した栄養をもらう代わりに、藻類を有害な乾燥や紫外線から守ります。まさにギブアンドテイク、互いに利益のある「相利共生」の関係性を築いています。
地衣類は小さいために、彼らの奇抜でユニークな色形を肉眼で観察することはできません。11月26日に開催した観察会では、ルーペを使って地衣類の魅力を満喫しました。ルーペは虫メガネよりも焦点距離が短く、観察時の対象物と目との距離が10 cmくらいになります。参加者の皆さんは縁石や樹木に張り付くようにして、じっくりと地衣類を観察していました。
当館ウェブページでは、科学館敷地内で観察できる7種の地衣類を紹介するミニガイドブックを公開しています。
ミニガイドブックのダウンロードはこちらから↓
ここに掲載されている種を覚えるだけでも、市街地の地衣類観察に役立つと思います。地衣類に限らず、生き物の種名を知ると彼らの多様さに気が付きます。すると、モノクロな世界に色が付くように、日々の生活が豊かになるかもしれません。ミニガイドブックを活用して、地衣類の世界への第一歩を踏み出してみてください。
左から、ツブダイダイゴケ、コフキメダルチイ、ロウソクゴケ、コナイボゴケ
より詳細な情報を科学館noteで公開しています。興味のある方は是非ご覧ください。
お散歩が楽しくなる!「地衣類ミニガイドブック」を公開(note)
開催日:2022年11月27日(日)
イベント担当者:小粥隆弘(生き物博士)
参考資料
柏谷 博之, 大村 嘉人 & 文 光喜. 里山の地衣類ハンドブック . (文一総合出版, 2020).
大村嘉人. 街なかの地衣類ハンドブック. (文一総合出版, 2016).